2022年1月31日に、youtube で一本のミュージックビデオ、オレンジスケール – 長瀬有花 (Official Video) が公開されました。友人に勧められるがままに見てみたら随分好きになってしまい、何度も見返してすっかりハマってしまいました。
この曲がなんでそんなに好きなのか、自分にはどう聞こえているのかをすきたい放題書いて行こうと思います。
オレンジスケールという単語
この曲のタイトルである「オレンジスケール」は、検索しても広く知られた用例などはないようで一般的な名詞ではなく、一般的な名詞である「オレンジ」と「スケール」をつなげて作られた造語であるようです。
この曲において用いられる「スケール」の曖昧さ
この曲の歌詞には幾度となくスケールという単語が使われています。
一般的に、スケールといわれて最初に思いつくのは、物差し等の大きさや重さを測るための基準、あるいは計測のための道具、という人がほとんどだと思います。
この曲においても、1番のサビの歌詞の、傾く陽とそれによりできる夕焼けの中で伸びていく影という描写において、この意味を持って使われています。
また、2番のBメロにおいて自分と宇宙の大きさの対比においては、基準により計測されたものの大きさそのもの、すなわち「スケールが大きい」といった言い回しに近い意味で使われています。
上記の2つの用例を混ぜて用いることで、スケールという概念を異なる視点から見たり、あるいは、陽の傾きにより計測基準自体が伸び縮みするという描写により、なんとも言えない曖昧さが表現されていてすごく良いなと思います。
でも、歌を歌う女の子の視点から描かれたこの曲におけるスケールは、上記の意味だけにはとどまらないと考えます。
オレンジという色はブルーではない
先にも書いたように、「オレンジスケール」は造語です。
オレンジは、色の三原色である、赤、黃、青のうち、青を除く、赤と黄を混ぜて作られるものです。つまり、オレンジスケールというのは、青くはないスケール、ブルーではないスケールを意味していると考えます。
ブルースケールという単語
逆にブルースケールとは何であるかについて考えると、ブルースケールという単語そのものはないものの、これに似ているブルーススケールという音楽用語に自然とたどり着くことになります。
音楽用語としてのスケールとは、曲の中で使われる音名の集合です。例えば、ハ長調ないしイ短調は白鍵盤だけで構成され、黒鍵盤は使わないといったことは多くの方がご存知であると思います。
スケールは、曲全体の雰囲気に強く影響します。例えば、長調なら明るい雰囲気であり、短調なら暗い雰囲気であるとされています。
ブルーススケールは、正確な定義については調べていただければと思うのですが、簡単に説明すると、短調(ナチュラル・マイナー・スケール)にフラットファイブを足したものです。
ブルーススケールを用いた曲は、その名の通り一般的にブルーな、すなわち憂鬱な雰囲気の曲となるとされています。
そして、ブルーススケールは、このオレンジスケールという曲のAメロで使われています。
しかし、ブルーススケールを特徴づけるフラットファイブを鳴らす機会が限られており、ブルーススケールであるにも関わらず、ブルーススケールが持つとされる憂鬱な雰囲気を特段強く感じることはないように思います。
また、Bメロでは、ブルーススケールからブルーススケールを特徴づけるフラットファイブを含む4つの音を取り除き、4音のみで構成されています。
ブルーススケールを特徴づけていたフラットファイブを完全に取り除いたことで、憂鬱さは完全に失われ独特な雰囲気が生じています。これはなんというか、前後関係から考えてブルーススケールから音を抜いたものですが、むしろブルーススケールではないということを主張しているようでもあります。
オレンジスケールとは
1番のサビは、5音で形成されています。これは、A♭を基音とした長調の下から4つ目の音と6つ目の音を抜いたものです。
長調から2つ音を抜くものとしては、4つ目と7つ目を抜くヨナ抜きと呼ばれるスケールや、2つ目と6つ目を抜く琉球音階と呼ばれるスケールがよく知られています。一方、1番サビで使われている4つ目と6つ目を抜くものについては、調べた限りではこのスケールを示すよく知られた呼び方は存在していないようです。
また、2番のサビは、1番のサビで用いられた5音に下から6つ目の音を足した6音です。これは結果的には、長調から4つ目の音のみを抜いたものです。
1番のサビの一部と、これに相当する2番サビ下から6つ目の音が出てくる部分の抜粋は以下のようになっています。
1番がこっちで、
2番がこっちです。
2番の、オレンジスケールと歌っているところで、まさに背伸びをしているように見えませんか?僕には見えます。
このことから、オレンジスケールとは、1番のサビで使われていた5音、並びに2番で使われる6音、さらに使われる音が6音に増えることを示しているのだと思います。
2番で使われる音が増える部分の旋律は、1番の歌詞にあるように少し背伸びしたようであり、スケールに使われる音の数が大きくなったこと、すなわち成長し、この曲で描かれる女の子のスケールが大きくなることを表すのだろうと僕には聞こえました。
まとめ
オレンジスケールという曲は、ブルーススケールとの対比、1番と2番のサビで使われるスケールの変化、音楽的要素とも呼応する作り込まれた歌詞によってふわふわとした釈然としない日々の中にある確かな成長を描いた、優しい中にも力強さがある素敵な曲だなと思います。
他にもこの曲の好きなところはたくさんあるけれども、ここまでに書いたことがいちばん大切な部分なんじゃないだろうかと思って、文章に書き起こしてみました。
先にも書いたように、1番のサビで使われている4番目と6番目の音が抜けた長音階には、広く知られた呼び方はありません。
でも、この曲が多くの人に聞かれれば、この曲のサビで使われている音階である46抜き長音階が、オレンジスケールと広く呼ばれ親しまれるようになる、いつかそんな日も来るのかもしれません。その時はきっと、長瀬有花さんや共にある作編曲及び映像作成を行ったいよわさんを始めとする周囲の人々の存在も、いくつもの次元を超え、広く知られることになるのだろうとおもいます。
素敵な曲をありがとう。これからも楽しみにしています。